- サム•マクブラットニィ、アニタ•ジェラーム、小川仁央/講談社
【このページの目次】
【この絵本の内容】
「どんなに、きみがすきだか あててごらん」チビウサギが短い腕をいっぱいに広げて「ぼくは こんなにさ」と言うと、デカウサギは長い腕をいっぱいに広げて「でも、ぼくはこーんなにだよ」。とうとう「おつきさまにとどくぐらい」までになった〈好き比べ〉。寝てしまったチビウサギにデカウサギが声をかけます…。
【2~3歳】読み聞かせのヒント
ゆっくりとゆっくりと
小さい子どもへの絵本の読み聞かせは、ゆっくりと、ゆっくりと、言葉をかみしめるように読んだ方がいいのですが、この絵本は特にゆっくり読むことをおすすめします。
一つひとつの言葉もゆっくりと、言葉と言葉の間もゆっくりと、そしてページをめくるのもゆっくりと。文章を読み終わったら、静かに息を大きく吸ってゆっくりと吐いて、お子さんの鑑賞を待ちましょう。目安は5秒です。
語りかけるように
この絵本は絵も文章も秀逸なので、お子さんに読み聞かせていると、ママやパパは特別に意識しなくても自然と我が子を思い描くことでしょう。そのイメージと気持ちを大切に、お子さんに語りかけるように読んであげてください。
そうすると、お子さんへの読み聞かせのはずなのに無意識に自分にも語りかけているような感覚になるかもしれません。これはとても大切なことです。
ママ&パパの声に敏感に反応するお子さんは「この絵本はママやパパがこんなに大切に読む絵本なんだ」と無意識に感じとることでしょう。「ママ&パパがこんなふうに読んでくれるなんて、この絵本はそれだけ大切な何かのおはなしなんだ」と感じるはずです。
【3~5歳】語りかけのヒント
「語らない」語りかけ
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語りかけたほうがいい絵本と語りかけない絵本
絵本にはママやパパが言葉をそえると、お子さんにたくさんの言葉や感情や経験をもたらす絵本と、言葉をそえてしまうと、絵本のせっかくの威力と魅力が少し弱まってしまう絵本があります。
この絵本は後者です。絵本を閉じても言葉なく、お子さんと一緒に絵本の世界の余韻を楽しみながら、何度も何度も、ただ読んであげることが一番だと思います。
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なぜ好きなのか、理由のない好き
チビウサギとデカウサギが、なぜ、お互いにこんなに好きなのか、絵本の中ではその理由が書かれていないのです。存在自体が愛おしい「理由のない愛情」ではないかと思います。
「ただ一緒にいたい」「ただ笑顔を見ていたい」「ただただ好き」というのは家族の愛情のあるべき姿ではないかと思います。ふだんなかなか言葉にしない感情を、絵本が代わりに言葉にしてくれるから、お子さんは大切なことを感じられるのかもしれません。
海外のコミュニケーション
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海外での〈好き比べ〉
「愛してるよ」「私の方がもっと愛してるわ」というやり取りは英語圏の恋人や夫婦なら、毎日交わしている日常的なコミュニケーションです。子どもが「ママ、大好き」と言えば、ママが「ママはもっと大好きよ」と返すというのも、英語圏の子どもにとってはとても身近で親近感のあるやり取りです。
「愛してる」「私はもっと」という身近なコミュニケーションに、この絵本は「どのくらい」愛してるのか、その度合いをコミカルに表現しているところに、欧米の子どもたちは新鮮さを感じるのかもしれません。
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日本での〈好き比べ〉
日本では好きな相手を目の前にして「好き」と言い合うこのような〈好き比べ〉をすることは、あまりないのではないでしょうか。
以前「好きと言わずに好きと伝わるから日本の以心伝心は美しいのに」とおっしゃったのは、幼児教室に孫を迎えに来たおじいちゃんでした。この絵本の背景には、確かに、以心伝心の日本文化はありません。
これからの国際化社会
今の子どもたちが大人になる20年後、30年後の世界では、英語はほとんどの人が話せる(べきであると思われるような)社会になるのではないかと考えています。
世界的な英語学習熱に加え、技術革新も加わりますから、ある程度の基本的な英会話は携帯が通訳してくれる時代になっているかもしれません。
しかし英語はコミュニケーションの手段ですから、自分が身につけて英語を話せるにしても、便利になるハイテク技術を利用して英語を話せるにしても、大切なのは「何を」話すかです。
外国人とのコミュニケーションでは「感情を、自分が感じた瞬間に、的確な言葉で相手に伝えること」は大切なことです。外国人はこちらの心理を慮ってはくれませんから、言わなければ伝わりませんし、想像だにされません。
「感情を、自分が感じた瞬間に、的確な言葉で相手に伝える」というのは意外と難しいものです。小さい時から、相手の気分を害さないようにと常に気遣い、一歩身を引いて処する奥ゆかしさを身につけた日本人にはなかなか慣れないものです。
この絵本のように少し日本っぽくない描写や表現のある外国の絵本は、子どもが気に入ったものを、自分と比べて異文化を感じられるくらいの年齢まで読み続けてあげたいなと思います。
もし子どもが「自分はしないのに、絵本の中のウサギはしてるんだ」と自分で気付けたら、それは大発見です。異文化コミュニケーションの小さくも大きな第一歩と言えるかもしれません。
【ママ&パパ】この絵本をもっと楽しめるかもしれない雑学
絵を「感じる」ヒント
この絵本の表紙のような絵が「絵と字が調和した絵」と言える傑作です。この絵本のこの表紙は絵本業界でもとても有名な評価の高い作品です。
雑学は知育の「とっておき」
絵本によく使われるテクニックに「同じ人物を、同じ見開きに、異なる瞬間の姿を描いて、時間の経過を表現する方法」というものがあります。その名も『異時同図法』と言います。異なる時間を同じ図面に描くという、なんともストレートなネーミングです。
日本の美術史を紐とけば、中世の絵巻物にも使われている技法です。『異時同図法』は日本の4大絵巻物である『伴大納言絵巻』や『信貴山縁起絵巻』にも使われています。(Wikipediaに飛びます)
この絵本の表紙をめくったチビウサギとデカウサギのおんぶの場面は、まさにこの『異時同図法』です。絵本の中で使われると、ウサギたちの飛び跳ねるようすがいっそう生き生きと見えます。
このテクニックを使っている絵本は他にもたくさんあるので、注意して探してみると楽しいかもしれません。
このような雑学はお子さんに伝えるタイミング次第で、知的好奇心にも、学習への意欲にも火をつけてくれるママ&パパの「とっておき」です。例えば、小学校高学年になって歴史の勉強が始まった時にこのような話をしてあげると、お子さんにとって「大昔の日本のイメージしにくい勉強」が昔好きだった絵本とつながりを持つことで、一気に身近なものになるかもしれません。
この記事がお子さんへの読み聞かせに役立てば嬉しく思います。
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