子どもの日が近づくと菖蒲(しょうぶ)がとても身近に感じられます。菖蒲湯に入ったり菖蒲園に行ったりすると「あれ?しょうぶと、あやめと、かきつばたって何がどう違うんだっけ…」なんて思ったりしませんか?
お子さんと一緒に菖蒲湯につかっている時や菖蒲園に行ったときには、ぜひ、お子さんに花の見分け方や名前の由来などを話してあげてください。菖蒲の香りをかいだり菖蒲の花を見たり、五感が働いている時のママやパパの言葉はお子さんの自然科学への知的好奇心をかきたてます。些細でも興味をもてればお子さんは自分で学び、自分で成長していくことができます。5月5日の子どもの日を迎える前にちょっとだけ、菖蒲の違いや由来を思い出しておきませんか?
【このページの目次】
そもそもなぜ勘違いするのか
「葉」と「花」と「名前」
● 「葉」
(写真はJAグループ茨城「河野さんの葉ショウブ」より)
菖蒲(しょうぶ)も菖蒲(あやめ)も杜若(かきつばた)も葉っぱは上にまっすぐ伸びています。昔から剣に例えられるほど先までピンとしています。
● 「花」
(写真は加茂しょうぶ園の花しょうぶまつりより)
花菖蒲(はなしょうぶ)も菖蒲(あやめ)も杜若(かきつばた)も花はどれも「花びらと顎(がく)が同じような色や形をしている」種類の花です。花が大きく人の目を引く華やかさがあり、花びらがたくさんあるように見えるのが特徴です。しかし実は外向きに垂れさがっている特徴的な花びらは「花びら」ではなく顎です。本物の花びらは内側にあって上に向かって広がっているものだけです。
この写真はヤマユリです。ヤマユリは「花びらと顎(がく)が同じような色や形をしている」種類の花で有名な花です。「手前にある3枚が花びらで、奥にある3枚が顎」だなんて、そう言われなければ分かりませんよね。(写真は横浜市緑の協会こども植物園『ヤマユリ』より)
● 「名前」
菖蒲(しょうぶ)と菖蒲(あやめ)は漢字で書けばどちらも『菖蒲』です。花菖蒲(はなしょうぶ)は「しょうぶ」と呼ばれるときもあれば「あやめ」と呼ばれるときもあります(詳細後述)し、万葉の昔には人々は菖蒲(しょうぶ)を「あやめ」と呼んでいました。これほど名前が入り乱れてしまうと何が何の花だか分からなくなってしまうのも無理はないというものでしょう。
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「しょうぶ」と「はなしょうぶ」
「はなしょうぶ」という言葉があります。菖蒲湯に入れるあの葉っぱに花が咲いたら「はなしょうぶ」になるのでしょうか。いいえ、違います。菖蒲(しょうぶ)と花菖蒲(はなしょうぶ)は全く異なる植物です。
● 華やかな「はなしょうぶ」
(写真は日本花菖蒲協会ホームページより)
● 地味な「しょうぶ」の花
(写真は重井薬用植物園ショウブの花穂より)
これが菖蒲(しょうぶ)の花です。このように菖蒲(しょうぶ)の花は小さくてとても地味です。一見すると『花』には見えません。花菖蒲(はなしょうぶ)の華やかな花とは比べものにならないほどです。
菖蒲(しょうぶ)の花は「小さな花が密集して先く」種類の花で、密集した花の集まりがまるで1つの花や穂のように見えるのが特徴です。同じ種類の「小さな花が密集して1つの花のように見える」植物といえば一番有名なのはアジサイでしょう。この写真は徳島市公園緑地管理公社のアジサイです。
● 花を咲かせる菖蒲(しょうぶ)
花はこんなに違いますから菖蒲(しょうぶ)と花菖蒲(はなしょうぶ)が似ているのは葉っぱだけということになります。花菖蒲という名前は「花を咲かせる菖蒲(しょうぶ)のような葉っぱをもつ植物」という意味です。
● 花菖蒲を「しょうぶ」と呼ぶ
この写真は平成27年東村山菖蒲(しょうぶ)まつりのポスターです。『菖蒲(しょうぶ)』と書かれていますが写真には花菖蒲が写っています。しょうぶ園やしょうぶ祭りといえば当然美しく咲き乱れる花菖蒲(はなしょうぶ)を思い浮かべますよね。このように花菖蒲(はなしょうぶ)は慣習的に「しょうぶ」と呼ばれることが多々あります。花菖蒲(はなしょうぶ)を単に「しょうぶ」と呼ぶこの慣習が「菖蒲の葉っぱに花が咲いたら花菖蒲になるんじゃないか」という誤解をうむ原因にもなっています。
逆に、菖蒲(しょうぶ)農家さんは葉が主役のは菖蒲(しょうぶ)の方を「葉しょうぶ」と呼んで混乱を避けています。
「はなしょうぶ」と「あやめ」
● 花がそっくり
2枚の写真を見比べてみてください。花菖蒲(はなしょうぶ)と菖蒲(あやめ)は花がそっくりです。花菖蒲(はなしょうぶ)は種類が多いために困りものです。5000種類を超える品種があると言われる花菖蒲(はなしょうぶ)の中には菖蒲(あやめ)のような色をしているものも菖蒲(あやめ)のような花びらの形をしているものもあるために花菖蒲(はなしょうぶ)と菖蒲(あやめ)はよく混同されてしまいます。しかし実は、花菖蒲(はなしょうぶ)と菖蒲(あやめ)の花を見分けるのは簡単です。それは…
● 見分け方は花びらの根元
拡大写真の花びらの根元を見てみてください。どちらの花も花びらに筋が入っています。しかし、よく見ると花菖蒲(はなしょうぶ)の筋は黄色い模様の花びらの外側だけですが、菖蒲(あやめ)の筋は黄色い模様の花びらの内側にまで食い込んでいます。そのため花菖蒲の花びらの根元は黄色一色ですが、菖蒲(あやめ)の花びらの根元の黄色い部分には筋が入っています。「花びらに文目(あやめ)模様が入っている」というこの特徴は菖蒲(あやめ)の名前の由来にもなっています。文目(あやめ)とは『織物や木目 (もくめ) などに現れた模様や色どり』のことです。
ちなみに花菖蒲(はなしょうぶ)も菖蒲(あやめ)もヤマユリと同様に「花びらと顎(がく)が同じような色や形をしている」種類の花ですから、厳密にいうと、この黄色い部分のある外側の花びらは『花びら』ではなく『顎(がく)』です。
● 花菖蒲を「あやめ」と呼ぶ
花菖蒲(はなしょうぶ)は「あやめ」と呼ばれたりもします。花菖蒲(はなしょうぶ)も菖蒲(あやめ)も植物学上は同じ『アヤメ科』という同じグループの植物だからです。花菖蒲(はなしょうぶ)を「あやめ」と呼ぶときには「アヤメ科の植物」という意味で使われることもあり、花菖蒲(はなしょうぶ)を「あやめ」と呼ぶことが一概に間違いだとは言えません。 『アヤメ科』の植物というのはとても種類の多いことで有名です。世界中に2000種もあり、クロッカスやフリージア、そして杜若(かきつばた)もアヤメ科の植物です。この写真の花はクロッカスです。そういえば菖蒲(あやめ)に似ている気がします。同じグループの植物だということは遠い遠い昔の先祖が同じだということです。「はなしょうぶ」の花も「あやめ」の花も「かきつばた」の花も似ていて当然なのですね。 ▼おすすめ記事 「あやめ」と「しょうぶ」は漢字で書けばどちらも『菖蒲』です。菖蒲(あやめ)の花の名前は「花びらに網目の模様があったために文目(あやめ)と呼ばれた」ことに由来していますので、本来「あやめ」は「文目」もしくは「綾目」と書かれなければいけません。厳密に言えば「あやめ」を「菖蒲」と書くのは誤りだと言われています。 ずっとずっと昔、飛鳥奈良時代には花が地味な菖蒲(しょうぶ)は「(くさ)あやめ」もしくは「あやめぐさ」と呼ばれていました。一方、美しい花が咲く菖蒲(あやめ)は「はなあやめ」と呼ばれていましたが、単に「あやめ」と言った場合には花が地味な菖蒲(しょうぶ)の方を指していました。 花菖蒲(はなしょうぶ)と菖蒲(あやめ)を比較したときと同じく、杜若(かきつばた)も花はとてもよく似ています。それはこの3つの花が同じ『アヤメ科』に属しているからだということも既にお話ししたとおりです。 「あやめ」と聞くと思い浮かべてしまうのがこの慣用句ではないでしょうか。「両者ともに優劣つけがたいほど素晴らしい」という意味で、一般には美しい女性をたとえる表現です。しかし最近では「似すぎていて見分けがつかない」という意味でも使われるようになってきています。 花菖蒲(はなしょうぶ)と菖蒲(あやめ)の見分け方と同じく着目したいのは花びらの根元です。花菖蒲(はなしょうぶ)と菖蒲(あやめ)の花びらの根元は黄色く、その黄色い模様に筋が入っていれば菖蒲(あやめ)でした。杜若(かきつばた)の花びらの根元は真っ白です。 また菖蒲(あやめ)と杜若(かきつばた)は生えている場所も違います。菖蒲(あやめ)は乾いた土地に生息しますから足下の地面が乾いていれば菖蒲(あやめ)です。一方、杜若(かきつばた)は水湿地に生息しますので足下の地面が濡れていれば杜若(かきつばた)です。 杜若(かきつばた)の名前の由来は「書き付け花」が訛ったのだと言われますが、その歴史は古く奈良時代には既に親しまれていました。杜若(かきつばた)を読んだ歌が万葉集に何首も登場するほどです。 杜若(かきつばた)の美術作品といえば尾形光琳の国宝『燕子花(かきつばた)図屏風』が有名です。尾形光琳はかのフェノロサに「世界最大の装飾画家」とまで呼ばれた有名画家で、『燕子花図屏風』の他にも『八橋図屏風』や国宝『八橋蒔絵螺鈿硯箱』にも杜若(かきつばた)を描いています。 ▼おすすめ記事 スポンサードリンク 花菖蒲(はなしょうぶ)も菖蒲(あやめ)も杜若(かきつばた)も植物学上は『アヤメ科』というグループです。一方、菖蒲(しょうぶ)は何と『サトイモ科』というグループに属しています。菖蒲(しょうぶ)は植物学上の分類で言えばサトイモやコンニャクと同じグループなんですね。 花菖蒲(はなしょうぶ)は比較的新しい江戸時代の植物です。一方、菖蒲(しょうぶ)も菖蒲(あやめ)も杜若(かきつばた)も奈良時代には広く知られていました。すでにご紹介したとおり菖蒲(あやめ)は由来に奈良時代の「あやめ」と呼ばれた女性が登場するくらいですし、杜若(かきつばた)は万葉集に歌われています。菖蒲(しょうぶ)はすでに奈良時代の宮中行事で使われていました。 一方で花菖蒲(はなしょうぶ)は奈良時代にはまだ存在しませんでした。花菖蒲(はなしょうぶ)には「ノハナショウブ」という名前の先祖がいますが、奈良時代に生息していたのは「のはなしょうぶ」でした。この写真の花が「ノハナショウブ」で、重井薬用植物園では園内で鑑賞できます。 花菖蒲(はなしょうぶ)が生まれたのは江戸時代です。花菖蒲は江戸の人々に大人気で、庶民の園芸観賞用として盛んに品種改良がおこなわれました。今では花菖蒲(はなしょうぶ)には5000種類以上の品種が存在すると言われます。 これは江戸時代に描かれた歌川広重の浮世絵で、『名所江戸百景』の花菖蒲(はなしょうぶ)を描いた作品です。江戸時代には庶民に花菖蒲が大人気でしたが、人気の秘密は美しさや育てやすさだけではありませんでした。花菖蒲は三日花と呼ばれ、花が咲いたらたった3日で散ってしまいます。梅雨の時期に雨に耐えながらもたった3日で散ってしまう花菖蒲の儚さは、美しく咲き美しく散っていく桜の美に通じるものがあったのかもしれません。花が3日で散ってしまうのは今も江戸時代も変わりませんので、花菖蒲を観に行く際は早めに行ってくださいね。
スポンサードリンク 「あやめ」と「しょうぶ」
● 漢字で書けばどちらも『菖蒲』
● しょうぶを「あやめ」と呼ぶ
「あやめ」と「かきつばた」
● 花はそっくり
「いずれがあやめ、かきつばた」
● 見分け方は花の根元と…
●「かきつばた」と奈良時代
● 「かきつばた」と江戸時代
仲間はずれ探し
植物学的にみると…
仲間はずれは菖蒲(しょうぶ)
歴史的にみると…
仲間はずれは花菖蒲(はなしょうぶ)
花菖蒲の江戸人気の理由
見分け方のまとめ
花びらの根元を見よう!
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