絵本の絵は「読む」ことができます。絵本は絵と文の芸術作品。写実的な絵、抽象的な絵、クレヨンで描かれた絵、水彩画の絵、色のない絵…大人が美術館で心洗われる体験をするように、子どもは絵本を読んでいるのかもしれません。かつて働いていた某幼児教室で蔵書絵本を決めるときに採用されていた絵本選びの基準をご紹介します。
【このページの目次】
おすすめの絵本の選び方
『絵』と『文』で選ぶ
絵本は『絵』と『文』の両方を楽しむ作品です。絵本の絵にも文にもいろいろな種類がありますから、絵本を選ぶときには『絵』と『文』の種類が偏らないように選ぶと、お子さんの絵本体験は一気に広がります。
ここでは0歳から5歳対象の乳幼児用絵本の『絵』についてご紹介します。
絵本の『文』についてはこちらでご紹介しています。お子さんの発達と興味にそった、お子さんにぴったりの絵本を選んであげてください。
絵本の『絵』を『読む』
絵本の絵は千差万別
0歳児から5歳児向けの絵本の絵はさまざまです。絵を描く道具も、描く場面の切り取り方も、その表現方法も、実にさまざまです。
絵本の『絵を読む』とは
絵本の『絵』を『読もう』としたことはありますか?
絵本の『絵』が読めることを知っているママ&パパは多くありません。しかし、絵本を選ぶときにはきっと無意識に『絵を読んでいる』と思います。
本屋さんの絵本売場でちょっと興味をひかれた絵本を手にとって、パラパラとページをめくってみる。きっと、絵本のページをパラパラとめくりながら「どんな物語なのかな」と判断していることでしょう。
「絵をみてストーリーを追おうとすること」ーこれが『絵』だけで物語を『読む』ということです。絵本は絵だけで物語が分かるようになっています。それが絵本です。
『絵』で選ぶ
絵本は『絵』だけでも物語を味わえる希有な本です。絵本を選ぶときには、この絵本の『絵』にいつもより少しだけ注意を払って観察してみませんか?
絵本の『絵』の種類
絵本の『絵』は多彩です。実にさまざまな絵があるのですが、大きく、とても大きく区分して4つに分けられると思います。お子さんに絵本を選んであげるときに、絵の種類が偏らないように気を配ってみると新しい絵本に出会えるかもしれません。
キャラクターの絵
登場人物の個性を強く押しだした絵本作品です。やはり一番売れるのでしょう、本屋さんの絵本売場では平積みが多く、一番多く目にとまるのがこの種類の絵本です。
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シリーズ化される絵本
『ぐりとぐら』シリーズ、『だるまちゃん』シリーズ、『こぐまちゃん』シリーズ、『ももんちゃん』シリーズなど、シリーズ化される傾向にあるのもキャラクターの個性が子どもたちに大人気な証拠なのでしょう。
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アニメ化される絵本
さらに有名な、『ノンタン』や『アンパンマン』などの絵本はアニメ化されています。アニメが国民的大人気作品になりましたから、今の子どもたちは『アンパンマン』が絵本作品だということを知らないかもしれませんね。
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登場人物になりきって
キャラクターの絵の絵本は、主人公になりきって空を飛んだり海へもぐったり、実際にはできない冒険を絵本の中で体験させてくれます。この種類の絵本は想像の世界への入り口です。
写実的な絵
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抜き出して魅せる
絵本の絵には写真だと見まちがえるほど、緻密に、正確に、描かれた絵があります。日常的な風景の中から子どもに「見せたいもの」だけを抜き出して、美しく描きます。それを絵本の物語に組み込むことで、子どもに「魅せる」ことができる絵本です。
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異文化を感じる
写実的な絵のいいところは、実物とよく似ていることです。例えば、外国の昔話はその国の文化を多少なりとも理解しているとずっと楽しめる場合があります。乳幼児にとっては「文化」が何かも理解できないでしょうが、とても緻密で正確な挿絵が外国の暮らしを繊細に描いていてくれれば小さな子どもにも「いつもの生活とは何かが違う世界の物語だ」と自然と伝わります。子どもの異文化体験の小さくも大きな第一歩です。
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じっくり観察する
写実的な絵の絵本は、動物をテーマにしている絵本もたくさんあります。絵本の中の動物は愛らしいまま、ずっと同じ姿勢でいてくれます。お子さんはじいっと見入ることでしょう。
キャラクター化してしまった動物の絵本は、時として何の動物なのだか分からない時があります。キツネがネコに見えたり、クマとネズミが同じ大きさで描かれていたりする絵本だけしか読まないでいると、特に小さな子どもは混乱してしまいます。
写実的な動物の絵本は、実際にはこれほどじっくり見ることができないものを、子どもの知的好奇心が満たされるまでずっと、何度も見せてあげることができる絵本です。この絵本体験が辞書や図鑑への入り口になるかもしれません。
抽象的な絵
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デザイナーの絵本作品
写真のような絵の絵本がある一方で、乳幼児用絵本の中には「いったい何の絵なのか分からない」抽象的な絵もあります。抽象的な絵の絵本は絵本作家ではなく、デザイナーによる作品も少なくありません。
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感性で楽しむ
抽象的な絵の絵本は、大人が「何だこれは?!」と思ってしまうために子どもに読み聞かせることをためらう場合がありますが、大人が思っているほど子どもは「絵が何であるか」に執着しないものです。
言葉を教えれば綿が水をすうように知識をどんどん吸収していく知識欲がありながら、「何だか分からない絵」はありのままを感じて味わうことができる鋭い感性も持ち合わせている子どもの潜在能力は、まさに「子どもはみな天才児」と言われるに相応しい能力です。
抽象的な絵の絵本は、お子さんの感性を育んでくれます。物語や絵の意味を『考える』のではなく、美術館の芸術作品のようにあるがままを『感じて』味わってみてください。
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感性は生きる力の源
抽象的な絵の絵本は感性を磨きます。
感性のゆたかな人は季節の移ろいにとても敏感です。美しいものを美しいと愛で、美味しいものを美味しく味わい、心を自由に解放させてリラックスできるものです。
子どもたちが大人になる20年後、30年後の世界で一番大切になるのは、この感性ではないかと私は考えています。自分の心を自分の意志でリラックスできる人とできない人とでは、人生の幸福度や充実度はまったく違うと思うのです。自分の心をリラックスさせてリフレッシュさせることができれば、次の日からの活力も湧くというものでしょう。感性は生きる力の源ではないでしょうか。
大人はみんな子どもの時には今の子どもと同じくらいに豊かな感性を持っていたはずです。抽象的な絵の絵本は、今の子どもたちが感性を「取りもどす」必要のないくらいに大人になっても豊かな感性を持ち続けられるお手伝いをしてくれるでしょう。
写真を使った絵
絵本の中には、写真を使った絵の絵本もあります。写真のみを使っていたり、写真を他の絵の一部に使っていたりします。
写真を使った絵と、写真のような写実的な絵の違いは、子どもに「見せたいもの」以外のものです。いかに写真のようであっても絵なら「何を描くか」作家が決められますが、写真で切り取ることができるのは「もの」ではなく「時間」です。
切り取られた一瞬の写真の中に、太陽の光を感じ、温かさを感じ、風を感じるかもしれません。感性の鋭い子どもならば音や匂いを感じとっているかもしれません。
たとえ大人には分からなくとも、子どもには感じとれています。一見、絵なのか写真なのか分からなくても、絵の絵本と写真の絵本は子どもにとってどちらも大切な絵本体験です。
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道具の違いによる絵の種類
さらに、絵を描く道具である『画材』が変われば、絵本の印象もがらりと変わります。大人が美術館に足を運ぶように、子どもも絵本という芸術作品を味わって心洗われる絵本体験をしていますから、いろいろな種類の絵本という芸術作品に触れさせてあげたいなと思うのです。
- 色鉛筆で描かれた絵本
- クレヨンで描かれた絵本
- 水彩画の技法で描かれた絵本
- 油絵の技法で描かれた絵本
- 版画の技法で描かれた絵本
- 切り絵の技法で描かれた絵本
- 水墨画の技法で描かれた絵本
- モノクロの絵本 など
おすすめの絵本の買い方
まず図書館で借りてみよう
図書館で絵本を借りるときには「ママが読みたい絵本」「お子さんが選んだ絵本」に加えて「この絵本を買う気にはなれないなと感じる絵本」を毎回何か1冊借りるのをおすすめしています。お子さんの反応に予想もしなかった大発見があるかもしれません。
気に入ったら絵本を買おう
図書館で借りた絵本の中で、お子さんが特別に気に入ったものを買ってみてはいかがでしょうか。毎日毎日「読んでちょうだい」と持ってきたり、読んでも読んでも「もう一回、おねがい」と言ったりする絵本は、ぜひ本棚に置いておいてあげてください。お子さんが自分で自分の絵本の楽しみ方を見つけるのに大いに役立ちます。
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この記事が、楽しい読み聞かせの時間をすごすヒントになれば嬉しく思います。
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