読書感想文の書き方のヒント。小学校低学年の部の青少年読書感想文コンクールの内閣総理大臣賞受賞作品(いわゆる全国1位の読書感想文)を分析しながら賞が取れる書き方を考えます。
賞が取れる読書感想文とは
正直なところ、市や県の入賞くらいならばそれほど難しくはありません。同じクラスに全国1位を取るような子がいない限り、そこそこ時間をかけて内容を練ればある程度は狙って賞を獲れると思います。(但し残念ながら担当教諭の「運」というものは存在します)
ここでは学校の先生の立場になって「クラスのどの子にクラス代表になってもらうか」「どの子の読書感想文を学年代表として市の選考会に出すか」を考えてみたいと思います。
「コピペしにくさ」が大切
まず、上手でない読書感想文に共通するのが「コピペしやすそうだな」という印象です。当たり障りのないことを並べていて、意見や考えも誰もが思いつきそうな内容にとどまっている読書感想文は、読んでいて「この本じゃなくても書けそうだな」「このまま来年も使いまわせそうだな」と思えるはずです。
「コピペできそうな読書感想文」ではいけません。
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「強い独自性」があること
コピペしにくそうな感想文ということは、内容に強い独自性があるということです。青少年読書感想文全国コンクールの内閣総理大臣賞受賞作品はもちろんですが、県の金賞レベルの感想文でもその子にしか書けないの感想文になっているはずです。
平たく言えば「どこを抜き出してもこの子の感想文だってバレそうだな」と感じる読書感想文は優れているということになります。
「自分だけの体験談」が最強
その子にしか書けない感想文にもっとも必要なのは、その子だけの体験談や経験したエピソードです。これがあるだけで読書感想文はまったく深みが変わりますから、しっかりとした体験談を入れるだけでクラス代表レベルの読書感想文にできます。
読書感想文に限らず、体験学習型の勉強では教育要綱内外の複合的な知識を楽しく身に付けることができます。遅効性ではありますが学校の成績も上がってくるのでおすすめです。
「自分だけの切り口」もOK
読書感想文に必要とは言え、読書感想文を書かなくてはいけない時期になると毎年都合よく選んだ本の読書感想文に使えそうな体験をするというのもなかなか難しいものです。そんな時には、体験談がなくても大丈夫です。
体験談と呼べる特徴ある体験が書かれていない読書感想文もたくさん入賞しています。「もし自分だったらこんな時にどうするか/どう感じるか」を上手に盛り込みましょう。
読んだのは課題図書でした
2018年の青少年読書感想文全国コンクールの全国1位にあたる内閣総理大臣賞は3年生の女の子が受賞しています。
物語に忠実な書き方でした
2018年中学年の部の内閣総理大臣賞を受賞した作品は「独特の切り口」タイプの感想文で、自分の体験談は書かれていませんでした。感想文のテーマが「自由」でしたので、普段の生活の中で「自由を強く意識する体験」というのもあまり考えられませんから当然の構成と言えます。
しかし、「もし自分だったら」という感想がうまく散りばめられていて、うまくまとまっていました。参考にするには、もっとも適した入賞作品だと思います。
読んだ本は課題図書でした
2018年の内閣総理大臣賞受賞作品で書かれていた本は、課題図書『最後のオオカミ』です。
青少年読書感想文全国コンクールは、例年、すべての部において内閣総理大臣賞と文部科学大臣賞(1作品ずつ選出されるいわゆる全国1位と2位)に課題図書から1作品、自由課題図書から1作品が選ばれています。
下位入賞作は写真絵本が多め
2018年の中学年の部の課題図書には『すごいね! みんなの通学路』という本がありました。この本は世界中の子どもたちが使っている通学路を写真に収めた写真集のような本でした。下位の賞にはこの『すごいね! みんなの通学路』の感想文が多数入賞していました。
青少年読書感想文全国コンクールには、全国1位の内閣総理大臣賞、2位の文部科学大臣賞のほかに、毎日新聞社賞、全国学校図書館協議会長賞、サントリー奨励賞があります。
課題図書は毎年4冊あるのですが、『最後のオオカミ』の感想文で入賞したのは内閣総理大臣賞を受賞した1位の読書感想文のみでした。一方で、写真本である『すごいね! みんなの通学路』を読んだ読書感想文はぜんぶで7作品が入賞しています。これはダントツで最多です。他の課題図書2作品はそれぞれ3作品と4作品が入賞していました。
賞がとれる本の選び方
読書感想文コンクールで入賞を狙うならば、大人が一読して「この本でどんな感想文を書けばいいんだろう」と思う本がおすすめです。大人が書きにくく感じる本は審査員も「どんな感想文を書いたんだろう」と興味津々で読んでくれます。
本来は書き出しを工夫して興味をひかなければいけないところを、審査員の方から興味をもって読み出してくれるので、大人にとって「書きにくい本」というのは冒頭部分からかなりのアドバンテージを得られます。
課題図書以外から本を選ぶのであれば、例年、王道の「戦争もの」「社会弱者もの」が多く入選しています。キーワードを「いのち」「差別」「偏見」などとする作品群です。
この傾向は他学年の部でも共通しています。
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全国1位はこんな感想文でした
では、内閣総理大臣賞を受賞した読書感想文の内容を詳しく見ていきたいと思います。
(注意)著作権について
青少年読書感想文全国コンクールに応募されたすべての作品の著作権は主催社にあります。この記事の中では本文の引用はまったくしていません。入賞作品はこちらでお読みになれます。
テーマは「自由とは何か」
2018年全国1位の読書感想文は「自由とは何か」をテーマに書かれた感想文でした。
読書感想文の構成は基本形
読書感想文は「自由」をキーワードにして、比較的基本に忠実は構成になっていました。
小学3~4年生の読書感想文は「起・承・転・結」の4段階構成ではなく、序文・本文・結論の3段階構成で考え、それぞれ「はじめ」「なか」「おわり」と呼ばれます。
「はじめ」の段落で障害者に対して「自由とは何か」を問いかけ、「なか」で本のあらすじを整理しつつ本の中で描かれた自由についてをまとめ、「おわり」の段落で「自由とは何か」の答えを提示するという内容でした。
中学年の部は1200字以内
ちなみに、青少年読書感想文全国コンクール中学年の部では「本文1200字以内」という文量です。「本文1200字以内」とは、題名と学校名、氏名、改行による空白を含めずに800字以内という意味です。
試験やコンクールで字数制限がある場合、最低でも7割の文字数が必要になります。試験での高得点やコンクールでの入賞を狙うのであれば8割は必要です。2018年の全国1位作品は約1110字の感想文でした。字数制限の8割近くの文字数が埋められており、入賞作品としては理想的な文字数でした。
「はじめ」1段落, 約130字
一般的な読書感想文の書き方では、「はじめ」の部分に、題名や登場人物の説明をしたり、お話のあらすじを紹介したり、その本を選んだ理由を書いたりします。
しかし、2018年の第1位作品では「自由とは何か」という感想文のテーマへの問いかけのみが書かれていました。かなり大胆でシンプルな内容で、文字数もおよそ130字と中学年の感想文の「はじめ」にしては少ない字数に抑えられていました。
感想文の書き出しの一文は「本を読んで自由とは何なのだろうと思った」という内容でした。
続けて、「この本の中では3つの自由が描かれていたこと」と「その3つの自由とは何かの紹介」がなされました。
そして「私はこの3つの自由について考えてみました」と、次の段落へのつなぎを作って、これでおよそ130文字。「はじめ」の段落はこれだけでした。
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「なか」3段落, 約760字
一般的な読書感想文の書き方では、「なか」の部分には、本を読んで心に残った場面の説明とその場面で自分が感じたことを書きます。
この読書感想文では、本に出てきた「3つの自由」の場面や登場人物の説明と、それに対する自分の感想が述べられていました。そのため、「なか」の部分は、3つの段落に分けられていました。
「なか」の中の第1段落, 約160字
1つ目の自由は、この本の中心人物の生い立ちから考えた「自由」でした。ロビーという名前のこの少年は成長すると、本の題名にもなっているオオカミと関わりを持つことになります。
「なか」の中の第1段落で書かれていた自分の感想は「自由な生活があれば人とのきずなを感じられるから素晴らしいと思う」という点のみで、残りの字数はすべてあらすじの要約でした。
「自由になれると他人との心温まる交流ができるようになった」という、この気づきは「なか」の第3段落でロビーがオオカミとの暮らしで感じた「自由」の伏線になっています。
「なか」の中の第2段落, 約220字
2つ目の自由は、「どれいのようなあつかい」を受けていたロビーを自由にしてくれた恩人の「自由」でした。この恩人は息子を戦争で失っています。
「なか」の中の第2段落ではあらすじを要約しつつ、戦争と自由との関わりに言及していました。書かれていた自分の感想は「この人物は自分の息子を殺した相手を殺したいと思ったこともあるだろう」「この人物は戦争のない自由な生活の大切さを感じていたのだろう」「だからロビーを自由にしてくれたのだろう」の3点でした。
「なか」の中の第3段落, 約440字
「なか」の中の第3段落目が、「はじめ」と「おわり」を含めたこの感想文の中でもっとも字数の多い段落でした。
3つ目の自由は、成長したロビーと生活を共にするオオカミにとっての「自由」でした。
「なか」の中の第2段落では、成長したロビーのオオカミとの生活と、少年時代のロビーの「どれいのようなあつかい」を受けていた生活を照らし合わせて、本当の自由とはどうあるべきかが考察されています。
「なか」の中の第2段落に書かれていた感想は、物語全体を通したスケールの大きな感想でした。
具体的には3つの内容が含まれていました。1つが、オオカミとずっと一緒に暮らしたいというロビーの願いは「(ロビー自身が幼少期に受けた)どれいのようなあつかい」と同じことではないか、という指摘。もう1つが、愛すべきオオカミを野生にかえしてあげたロビーの行為は、少年時代にロビー自身を自由にしてくれた恩人の行為と同じように感じられた、という感想。
最後の1つは、ロビーが野生にかえしたオオカミがロビーに自分の家族を見せに戻ってきた場面を描写しながら、「自分の家族をつくったオオカミを見たロビーは、過去にロビー自身が、自由になれて初めて人とのきずなを感じた幸せの記憶を思い出していたかもしれない」と書くことで、ここで「はじめ」の段落においた伏線を回収しています。
「おわり」約220字
一般的な読書感想文の書き方では、「おわり」の部分には、この本を読んでもっとも強く感じたことや深く考えたことを書きます。たいてい最後は、自分を主人公の立場において、これからしたいことや心がけたいことなどを書くことのが一般的です。
内閣総理大臣賞を受賞したこの読書感想文は、「おわり」の段落で、「自由とは何か」の答えを書いています。
まずは、「自由は自分勝手にふるまうことではない」と誤った自由の認識を提示します。そして、「では自由とはどうあるべきなのか」を続けます。この感想文における結論として「自分の自由と相手の自由が同時に成立しなければいけない」ということと、「自分と相手の自由を成立させるためには相手への思いやりと理解の心が大切だ」ということが書かれていました。
感想文の最後の一文には「最高のプレゼントができたと思う」という、感想文独特の抽象的な言葉がおかれていました。「すべての人へ託した希望だと思う」「今を生きる私たちへの切なる願いに違いない」「この本は忘れられない宝物になった」などという抽象的で美しい言葉は感想文の締めの言葉としてはよく使われます。
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この子にしか書けない感想文
この読書感想文が評価された「この子だけの独自性」は、この課題図書の中に混在する「自由」を見つけ出した読解力と、その自由を短い言葉で的確にまとめた語彙力、3つの自由を互いに絡めながら有効な場面を適切に描写しつつ「本当の自由には互いを尊重し合うことが大切だ」という結論へと結びつけた文章力だと思います。
特別なエピソードを盛り込むことなく、読解力と文章力で勝負する書き方は再現性が高いので、非常に参考になる作品だと思います。原文は「青少年読書感想文全国コンクール公式サイト」内の「入賞者・作品紹介」でも読むことができますし、その年の入賞作品が掲載された冊子は毎年発売されています。
おすすめの「書き方」
書き方次第で地頭がよくなる
読書感想文は書き方次第でグンと成長できるいい機会です。読書感想文を書くといろいろな力を鍛えることができます。複合的なスキルが伸びるので学校のテストだけではなく生きる力そのものが育まれ、結果的に「地頭が良くなる」という効果につながります。
「地頭」や「論理的思考力」という言葉は最近では新しい教育要綱のキーワードのようにも扱われますが、地頭が良いとは頭の回転が早いことであり、頭の回転が早いということはものごとを論理的に理解できているということです。論理性の基本は原因と理由の関係性です。まずは「誰が」「なぜ」「いつ」「どこで」「なにを」「どうしたのか」を正確にとらえる必要があります。
無料作文キットでコツを掴む
斎藤孝氏の作文通信教育「ブンブンどりむ」は無料教材キットが超豪華!「タダでこんなことまで教えちゃっていいの!?」とこちらが恐縮してしまうほどの充実度。無料キットは一度は請求してみる価値があります。
▼ 目からウロコの作文術
これからに必要な書く力とは
読書感想文は文章力と語彙力を伸ばしてくれますが、読書感想文自体は社会であまり役に立ちません。高校生の小論文授業は、まず体に染み込んでいる感想文の書き方がなぜダメなのかを説明するところから始めますが、それでも何度書いても感想文の型から抜け出せない学生が少なくありません。特に優秀な子ほど感想文の書き方が染み付いていて小論文に苦労する傾向があります。
お子さんが今後必要とする書くスキルのうち、小学校低学年の今のうちに伸ばしておきたいスキルが3つあります。
要点をまとめる力
一つ目は「要約力」です。文章を読んで内容をまとめる力は大学に入学すればレポート提出という形で、社会に出れば調査書や報告書という形で求められるスキルです。ちなみに要約力は欧米諸外国では大学生の基礎能力で、多くの国で小論文力と同じく中学高校で徹底的に鍛えられます。
すぐに目に見える成果で言えば、国語の試験で「筆者がこの文章で伝えたかったことは何でしょう」などの記述式問題に強くなります。
理由をさがす力
そして、大切なのが「理由を探す力」です。優秀な学生は国語の読解問題として「理由を示した箇所を抜き出しなさい」という抜き出し問題はすぐにできるのに、自分の意見や感想の理由を探すのに非常に時間がかかります。
読書感想文を書くときには「どうしてそう思うのか?」を常に考えるのがおすすめです。理由探しに慣れてくると、自然と読解力も伸びてきます。
相手を想定した文章術
最後は「誰に向けて文章を書いているのかを常に意識するスキル」です。
小・中学生時代に読書感想文でたくさん賞を獲っている学生ほど、この視点を忘れがちです。読書感想文は担任の先生や審査員など、感想文の内容に興味を持っている人が読むものですから仕方がないのですが、大学では、また社会人になってからは相手を想定していない漠然として文章はほとんど意味がありません。
小学生のうちは「お父さん」がよろしいかもしれません。「お父さんに読んだ本のことを教えてあげよう」「お父さんはこの本を読んだことがないから、もう少し詳しく説明してあげたほうがいいんじゃない?」などと会話をすすめてあげてはいかがでしょうか。おばあちゃんや親戚のおじちゃんでも構いませんが、できるだけ親しい人物の方がよろしいと思います。
グンと伸びるのは「会話」
お子さんが読書感想文を書いていてグンと成長するのは、試行錯誤している瞬間です。考えをまとめるのは、親と話をしながら自分の考えを一つひとつ言葉で説明することでより効果的になります。
地頭がよくなる声かけのコツ
お子さんのためになる読書感想文の書き方のコツはたった1つ。「どうしてそう思ったの?」です。
「書き方」の本を買うなら
小学3~4年生向けの「読書感想文の書き方」本を買うのであればこのような本がおすすめです。
▼ 課題図書で入賞を狙うならこの本
【内容情報】(出版社より)夏の読書感想文コンクール課題図書に完全対応しているのは本書だけ! 佳作揃いの2019年小学校課題図書12冊を徹底分析(中略)「6つの質問」に順に答えていき、その答えを順に並べて文章にすれば読書感想文ができ上がるように工夫しました。
▼ お子さんが自分で読むなら
20もの読書感想文の例が載っているので、お子さんが初めて中学年レベルの読書感想文に挑戦するというママやパパには特におすすめです。
▼ 親子で一緒に読むなら
20もの読書感想文の例が載っているので、お子さんが初めて中学年レベルの読書感想文に挑戦するというママやパパには特におすすめです。
▼ 字を書くのが速いお子さんなら
題名がほぼ同じなので非常に混乱しますが、今回はこちらの本を参考にして「一般的にはこう書きます」と紹介してきました。付箋を使った読書術は大学生になって必ず必要になるスキルですので、字を書くことにストレスがないお子さんであればそろそろ始められるかもしれません。
▼ 親がどう手伝えばいいか
2019年課題図書はこの4冊
ちなみに、2019年の低学年の部の課題図書は次の4冊です。
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