最近ある論文が発表され「絵本の読み聞かせは抑揚をつけない方がいい」という風潮が広まっていますが本当はちょっと違います。論文が発表した研究結果を検証しつつ、家庭での読み聞かせ方のコツをご紹介。
【このページの目次】
注目を浴びた論文とは
「絵本の読み聞かせは抑揚をつけない方がいい」という風潮の元になった論文は『絵本の読み聞かせ時の演じ分けが子どもの物語理解と物語の印象に与える影響』という名前で発表された筑波大学の論文でした。
論文が示した研究のねらい
この研究のねらいは「登場人物の演じ分け」をする絵本の読み聞かせが「物語理解」と「物語の印象」という2つの側面において幼児期の子どもにどのような影響を与えるのかを実験的に明らかにすること、でした。
論文が示した研究の方法
研究の方法は、23名の年長さん(5~6歳)を2グループに分け、一方のグループには登場人物を演じ分けて読み聞かせをし、もう一方のグループには演じ分けをしないで読み聞かせをし、その後、物語の理解度を測るテストと物語の印象を聞く質問をするというものでした。
論文の研究結果と3つの誤解
誤解1.「抑揚」は付けるな
読み聞かせで抑揚はつけない方がいいというのは誤解です。
そもそも論文と抑揚は関係ない
この論文で2つのグループの違いを調べたのは「演じ分け」についてで、抑揚は関係ありません。今回の実験での読み聞かせは図書館員の読み聞かせ方を忠実に再現しました。つまり、実際に行われた読み聞かせ実験では演じ分けをしたグループも演じ分けをしなかったグループも、どちらも適度な抑揚はつけられていたことになります。
- 発音が明瞭である
- 感情がこもっている
- 声に高低(抑揚)がある
- 言葉に区切りがある
- 適当な速さである
- 文章内容が分かりやすい
論文が注目している「演じ分け」とは
この論文の実験では、演じ分けをしたグループの読み聞かせでは図書館員の読み聞かせ方に加えて「演じ分け」の部分について大げさな印象を与えるように読み聞かせています。その違いは主に次の4点だと書かれています。論文の要点をまとめれば、読み方が違ったのは台詞と擬音語だけです。これは演じ分けのグループにはまるで芸人さんがコントをするように大げさに読み聞かせたとイメージすればいいと思います。
- 登場人物それぞれで声の高さを大きく変える
- 同じ登場人物の声は同じように読む
- 喜怒哀楽が表現された場面で感情がはっきり分かるように読む
- 歌や情景を表す擬音語などを表情豊かに読む
誤解2.「理解度」が低下する
抑揚をつけると理解度が下がる、というのは誤りです。この論文で測定された「物語の理解度」は両グループとも同じ結果でした。
- 「全員で遊んだあと何をしましたか?」など物語にでてくる内容を問う6つの質問
- 「お餅を食べたとき、かんたくんはどう感じましたか?」など登場人物の心情について問う5つの質問
誤解3.「印象」が悪くなる
抑揚をつけると絵本や物語の印象が悪くなる、というのは誤解です。
確かに「演じ分けあり」と「演じ分けなし」のグループで差が出たのは「物語の印象」でした。「物語の印象」については「演じ分けなし」のグループの方が結果が良かったというのですが、論文の中ですでにこの研究が十分でない可能性を言及しています。
これらの結果は、演じ分けで物語の印象が変わる可能性を示唆している。ただし、本研究の限界は、サンプル数の少なさから十分な精度を得られていないことである。
論文「3.3. 考察」より
論文から学ぶ読み聞かせ方
論文は「読み聞かせ時の演じ分けは、大きく物語理解には影響しないものの、心情理解を阻害する可能性、また、登場人物に対する印象に影響がある可能性が示唆された」と結論づけています。この結論から、ふだんの絵本の読み聞かせのヒントを探りたいと思います。
保育士さんの読み聞かせ
適度な抑揚と淡々とした読み口で
保育士さんや読み聞かせボランティアさんの読み聞かせでは、同時に多くの子どもたちに絵本のストーリーを届ける必要がありますから、より多くの子どもたちが理解しやすいように演じ分けについては控えた方がよいと考えられると思います。擬音語・擬態語や登場人物の台詞をあまり感情を込めて読むのはおすすめできないかもしれません。しかし、それはロボットのようにすべてを平坦に読むということではなく適度な抑揚は必要です。
家庭での読み聞かせ
親自身が楽しめる読み聞かせ方を
家庭での読み聞かせ方では抑揚や演じ分けのことは特に気にしなくていいのではないかと思います。家庭での読み聞かせは親が読むのを楽しめる読み聞かせ方の方が、読み聞かせ冊数が増えますし、毎日の習慣にもなりやすくメリットが多いと思います。
論文の結果ももしかしたら親が影響?
論文が示した結果を見ると「演じ分けが心情理解を阻害した」というのは、ご両親の家での読み聞かせ方に影響を受けているのではないかと思いました。つまり、普段から登場人物の台詞を感情豊かに読んでいるご家庭のお子さんは演じ分けをした読み聞かせ方でも心情理解が深く、普段の読み聞かせが比較的平坦なご家庭のお子さんは「演じ分けの大げさな声にビックリしてしまって」物語の内容よりも声の軽重に気を取られてしまったという可能性もあると思うのです。
お笑いだって最初は同じかも?
例えば、初めてお笑いを見たときは芸人さんの動きや声の大小ばかりが印象的で「どんなネタだったか」はほとんど記憶に残りませんが、お笑いを見慣れてくると芸人さんの言動が多少大げさでもネタの内容を正確につかめるようになった、ということはありませんでしたか?
子どもは親の読み聞かせで育つ
保育園や図書館などで読み聞かせをたくさん聞いたとしても、子どもは親の読み聞かせで育ちます。
噺家の先生や芸人さんのお子さんはきっと表情豊かな読み聞かせで育つことだろうと思います。それでよろしいのではないでしょうか。噺家の先生や芸人さんのお子さんはきっと一般家庭の子どもよりも感情を言葉に乗せることに敏感で興味津々に育つことだろうと思います。 授業の音読も上手かもしれませんし、学芸会などでは大人顔負けの演技をするかもしれません。
一方、比較的平坦な読み聞かせをするご家庭のお子さんは、小学校中学年になると新聞や教科書などの読書に移行するのが得意な場合が少なくありません。このようなお子さんは人の感情が書かれていない情報としての活字に興味があるのかもしれないと感じることがあります。
逆に、音読で抑揚や演じ分けの得意なお子さんは新聞を読むのが苦手な場合もあります。一度、音読が上手なお子さんに子ども新聞を読んでもらうと「新聞記事は登場人物がいないし、読んでも何も感じないから読んでいてもつまらない」と言われることが時々あります。
まとめ
読み聞かせは読み方も読む内容もバランスを大切に。
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